シリーズ2◆「兵士歴名簿」漆紙文書
漆紙文書(うるしがみもんじょ)とは、漆の硬化作用で土中でも腐らずに残った文書のことです。漆を保管する時は、紙を密着させて乾燥やほこりから保護しますが、その際に漆液が紙にしみこんで漆紙となります。現存する古代の文書はとても少ないため、大変貴重な資料といえます。文字を読み取る時には赤外線カメラを用います。
この「兵士歴名簿」漆紙文書は、宮城県内にあった軍団、名取団が胆沢城に派遣した兵士のリストです。上段に人名と年齢、下段に郷名+数字+「戸主」・人名+「戸口」と書かれており、13人分の記載が残存しています。郷名には、駒椅(こまはし)・高椅(たかはし)・瀦城(ぬまき)の3つがみえますが、いずれも柴田郡の郷です。また、郷名の上には合点があり、兵士が実際に到着しているかどうかを照合した印とみられています。
この漆紙文書で特に注目されるのは、戸主それぞれに番号が振り分けられていることです。これは、律令国家が戸を管理するために、各戸に付した「戸番」と考えられます。「兵士歴名簿」漆紙文書からは、日本古代の地域支配システムの一端が見えてきますが、それに加え、「戸番」が兵士徴発の場面で有効に利用されている様子もうかがえます。